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静岡地方裁判所浜松支部 昭和34年(う)196号 判決

被告人 田中利幸

昭二・五・一六生 露店商

主文

被告人を懲役八月に処する。

但し本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

右猶予期間中被告人を保護観察に付する。

押収に係るトランプ二組(昭和三四年再領第一号の三)、同ネル布生地一枚(同年再領第一号の一三)、同木製台一個(同年再領第一号の一五)、同木製箱一個(同年再領第一号の一六)、同三枚組カード二組(同年再領第二号の一)、同木箱一個(同年再領第二号の一一)、同二枚継台板一個(同年再領第二号の一二)、同毛布一枚(同年再領第二号の一五)は之を没収する。

押収に係る昭和三二年領第三号の一(現金二万八千円)中、金千円を被害者尾崎茂に、同じく金二千円を同中島為三に、同じく金千円を同荒井与一に、同じく金二千円を同河内松寿に、同じく金三千円を同黒沢市郎に、同じく金五千円を同福地敏雄に、それぞれ還付する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となる事実)

被告人は、他数名(所謂さくら)と共謀の上、三枚のトランプ札(十数枚のトランプ札をはり合せて、表面の絵の部分はそのままに裏面の数字と符号の部分は削り取つて白紙としたもの二枚(以下白札と称する)、同じく右白紙とした上に「大当り」と記載したもの一枚(以下当り札と称する))を表面を上に、当り札を左端(被告人より見て)にして観客の面前に並べ、之を両手で交互に移動させ、当り札がどの位置にあるかを顧客に当てさせ、賭金としては金千円を提供させて、当つた顧客には金二千円又は同額相当の商品を与え、外れた顧客には万年筆(価格約三六〇円)を与える、所謂『ランプ返し』と称する博戯を行うかの如く装う欺罔手段――即ち前記の如く顧客に対しては、左端に大当り札が置いてある旨、及びこの左端の当り札の移動先の看破の成否が博戯の対象である旨を告げるに拘らず、現実には、予め左端に札を置くに際し、観客の肉眼では知覚できない迅速な右手の運動(投げる様な運動)をさりげなく行うことにより、右手の中に持つている白札一枚と当り札一枚の合計二枚の内、当り札でなく白札を左端に置き(但し共犯たる所謂さくらに賭けさせて適中させる時には、当り札を左端に置く)、爾後の三個の札の置換行為は、わざと顧客が眼で追い得るような速度で行い、顧客をして左端には当り札が置かれているかの如く、及び爾後の三枚の札の行方を看破しさえすれば賭に勝ち得るかの如く、誤信せしめる欺罔手段を用いて賭金名下に金員を騙取しようと企て、

一、昭和三二年一月九日静岡県磐田郡二俣町二俣の花島靴店及び双葉湯附近において、前記手段により沢木ふみ、同匂坂栄吉を欺罔して両名をして賭金名下に各金千円を交付させ、

二、同年四月四日清水市草薙通り通称日本平展望台附近において、前記手段により尾崎茂、中島為三、荒井与一、河内松寿、黒沢市郎及び福地敏雄を欺罔して、中島、荒井をして各金千円、尾崎、河内をして各金二千円、黒沢をして金三千円、福地をして金五千円をそれぞれ賭金名下に交付させて、

もつて騙取したものである。

(適条)

判示各所為につき刑法第二四六条第一項。

併合罪加重同法第四五条、第四七条、第一〇条。

保護観察付執行猶予同法第二五条第一項、同条の二。

没収同法第一九条。

被害者還付刑事訴訟法第三四七条第一項。

訴訟費用負担同法第一八一条第一項。

(裁判官 植村秀三)

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